あの男にもらった、というか押し付けられた赤いマフラーはあれ以来一度も使っていない。
なんとなく、使うのには気が滅入る。
そんなことを考えている間に男と女が去り、辺りにまた静かな静寂が訪れた。
今日はどれぐらいここにいよう。
家なんか帰りたくないけど、野宿は無理。
友達なんていないし、こんな時に頼る相手もいない。
こう考えてみると、自分の人生って何なんだろって思ってしまう。
思わず自嘲的な笑みが出てしまうほど、たまに自分という存在がくだらなくて仕方なくなる。
ポケットにあるスマホを取り出して見るけれど、何もない。
中学2年に上がった時に親が勝手に買って持たせられたけれど、この2年間、電話は片手で数えるほど、メールやSNSなんてしたことさえない。
こんな無機質な物、持ってたって意味がないのに。
パッと画面が黒くなり、自分の顔が映る。
無表情の無機質な顔。
……自分もいたって意味がないか。
即座にスマホをポケットにしまい、顔を上げる。