「言ってたっけ?」


『とぼけんじゃねえよ』


「……うざい」



心の中で言ったつもりだったのに、声に出てしまったようだ。



『あ?』



電話口の声が一段と低くなった。



『……ああ、お前、まだ根に持ってんのか?』


「は?」


『キスしたの』


「……」


人が忘れようとしてたことを当事者が言うか?



「……」


『何も言わねえってことは根に持ってたか』



ケラケラと楽しそうなのがわかる。



『キスっつってもおでこだろ?どんだけガキなんだよ』


「……るさい」



悪かったね、ガキで。

どうせ、私はガキだよ。



クッと笑った男は、


『お前、今日は来ねえのか?』


「どこに?」


『いつもの場所』


「……行くけど」



嘘、今日はもう行く気なんてなかった。


でも、ムカついてイライラして、この男も困ればいいんだと思い、嘘をついた。



『ふーん』


「それが何?」


『別に。じゃあな』


「あ、ちょっと…!」



もうかけてこないで、と言おうとする前に切れた電話。



「……何だったの」



しばらく黒くなった画面を見つめていたけれど、ポンと布団に投げて自分も一緒に布団に身を投げた。