それにこの男の匂いだろうか。
マフラーから決してキツくない落ち着く匂いがする。
「それはもうお前のもんだ。いらねえなら捨てるなり何なり勝手にしろ」
「……」
本当はここで捨ててやってもいいのに、それができないのは、せっかくつけたマフラーを外して寒くなるのが嫌だから。
そう言い聞かせる。
「お前、帰んねえのか」
ドカッと隣に座った男に眉根を寄せて見るけど、すぐに視線を外す。
「……」
「親心配してんじゃねえのか?」
「……関係ない」
「ふーん。ま、それもそうか」
そうやって、男は深く聞かずに隣に座っているだけだった。
赤いマフラーに顔を少し埋める。
雪は降ることを止めない。
「綺麗だな……」
吐いた息が白く淡く真夜中に溶けていった。
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