銀色の彼

「別に嘘はついてない」


「ついてんだろ」


「だって、どうせ使わないから持ってないのと同じだし」


「そうゆうことじゃねえよ」




言い合いをしているうちに着信はやんだ。



誰よ、ほんとに……。



持ってることはバレたんだし、隠してても意味がないとわかったから、スマホをポケットから取り出す。




‘‘お母さん”


と表示されたディスプレイに思わず文句を言いそうになった。



そのまま、画面をジッと見つめている私に



「かけ直さねえのか？」



と聞いてきたけれど、返事をせずにまたポケットにしまおうとしたら、




「あっ、ちょっと！」



無理矢理奪われたスマホが男の手で軽快に操作される。



「ん」



でも、すぐにそれは私の手元に返ってきた。




「俺の番号入れたから消すんじゃねえぞ」




慌てて確認すると、両親しかいなかった電話帳に



‘‘灯”



一文字だけの名前が入っていた。



「ともしび…？あかり…？」


男の名前？何て読むの？



そんな私の疑問なんか気にせずに、



「誰にも教えんなよ」



厳しく忠告してきたその瞳に、



教える相手とかいないし、と思う。