あのとき、あの場所で





「ひゃぁ!あ...あの、どちら様ですか」




そう控えめに言ってきたその子は




髪は少し短く、綺麗な黒髪




瞳は髪と同じく真っ黒でどこか引寄せられる




「驚かせてごめんね。俺は家庭科部の望月 かなた。君は?」




「あ、わ、私は美月 ゆいです。すみません、家庭科部の部員さんだったなんて知らなくて...」




「いいや、別にいいよ。」




なんだろう




どこか懐かしいようなそんな不思議な感覚になってくる




「その、望月さんは何を作ってるんですか?」




美月さんは俺の手元に視線を向ける




「あぁ、ケーキを作ってて、家庭科部の活動時間内に終わんなくてさ、今先生に頼んで作らせてもらってたんだ」




「へぇ、そうなんですね。凄いです!」




彼女は目をキラキラさせてケーキに魅入っていた




ここまで幸せそうな顔をされたら、こっちとしても嬉しい




「俺のケーキでよかったら、そろそろ作り終えるし、食べていかない?」




俺はそう、彼女に言った




「えっ!...い、いいんですか?」




「もちろん。寧ろ、一人で食べきれないからさ、手伝ってよ」




「はいっ!では、お言葉に甘えて頂きます」




彼女は俺がケーキを作り終えるのを待ってくれていた




こんなにまじまじと見られながらケーキを作るのは初めてで少しもたついてしまった




「あ、のさ....よかったらここのクリーム美月さんがやってくれない?」




「えっ!...いえ..私はそんな、望月さんみたいに上手にできないし、折角こんなに綺麗なケーキなのに台無しにしてしまいます...」




しょんぼりしながらそう言う彼女がとても可愛らしくて




何故かとても愛しい....そう感じていた




「じゃあ....さ、俺と一緒にやろうよ。駄目かな?」




「いいえ!そんな....ありがとうございます!」




幸せそうに、嬉しそうに笑う柔らかい笑みは彼女に不意に儚さも感じさせた