きっとなかなか確信がつかず


不確かな情報のまま、美音のことを景に伝えることができなかったのだ



自分だけがひょんなことから知ってしまった事実を、あの夏祭りの日から彼はずっと心の中にしまっていた


それはただただ、結斗の優しさだ


「景ちゃん、抱きしめていい?」


いきなりいたずらな笑みを浮かべそう言う彼にドキリとしながらも、景は笑顔を引きつらせ胸の前で両手でバツ印を作る


「そんなキッパリ断られると、さすがに悲しいかなー」


結斗は笑いながら


「でも、聞いてくれてありがとう。少しすっきりしたよ」

と胸をなでおろした


「私は何も.....」


伊吹グループのことはよく分からないけど、親の会社の経営が芳しくないのだからきっと心は痛いだろう


それになんだか.....


私にはきっと、どうもできないのかもしれないが


まだ結斗は何か胸に抱えているような、そんな表情をしているように思えた


「じゃあ私、女子寮に帰るね」


「お疲れ様、おやすみ景ちゃん」


「おやすみなさい」



しかしその彼の胸につっかえている「何か」の正体が分かるのは


もうしばらく後のことだった