コンコン


木の色は明るく暖かな印象のドアを二度ノックすると、景は「爽馬」と室内に届くように名前を呼んだ


しばらくして室内から足音が聞こえ、ドアがゆっくりと開かれる



「景」


部屋から出て来た彼を至近距離で見上げ、景はわずかに照れながら微笑んだ


「爽馬、久しぶりの寮はどう?」

「変わってない」

「ふふふ、そうだね。実は半年しか経ってないからね」


爽馬は頷いてから自分が半年前まで使っていた部屋を振り返る


時間をかけてよくよく見渡し


「今日の朝まで、またこの部屋に戻ってこれるとは思ってなかった」

今この場所にいることを噛み締めた



そして、前に戻した顔を傾けて景を覗き込む



彼の瞳がガラスの如く青く透き通り吸い込まれそうなのは、前と変わらない


「爽馬.....」

「もう一度、景に会えるとも思ってなかった」


爽馬はそう言って景を引き寄せると、右手で部屋のドアを閉めながら左手で抱きしめる



「わっ、爽馬.....!」


突然のことに驚きと恥ずかしさで目を大きくした景は慌てて彼の名前を呼ぶも

自分を抱きしめる手が震えているのに気がつき、ハッとして言葉を詰まらせた



「僕のことを、救ってくれてありがとう.....。たくさん傷つけてごめん。伊吹グループにしてしまったことも、景を攻撃して怪我させたことも。こんなに多くのことを犠牲にしても、僕は笠上美音すら救えなかった。なのに.....」


「ううん、そんなことない。そんなこと言わないで。私たちが何の心配もせず変わらない生活ができるように、何も言わずに学校を出て自分のこと犠牲にしてきた爽馬が、誰も救えなかったなんてそんなはず無いでしょう?爽馬がいなければ、絶対に爽馬のお父さんの暴走も、お姉ちゃんの命の消耗も止められなかったよ」



景の言葉を聞いて、爽馬は声にならないため息とともに顔を景の肩に埋めた



許されなくていいと覚悟したはずなのに.....

もうこの手を解きたくないと思ってしまう



自分の人生が自分のものであるのは

景がいてくれたからだ



だからこの人生を、彼女に捧げたいなんて


きっと重たくて引かれてしまうだろうから




「爽馬.....」