景たちはハッとして彼を見る
「例え戻れなくても、罰を受けるべき人が罰を受けて、苦しんだ人が報われて、兄弟たちが父親の支配から自由を取り戻すことが出来れば、それ以上のことを望むほど欲張ったりはしない。景が.....みんなが、僕のために闘って自由をくれた。それだけでこの先僕は希望を持って生きていくことが.....」
_____ダメだよ
景はそれ以上聞くことができなかった
「嫌だ!!」
遮るように叫ぶと、咄嗟に爽馬の腕をぎゅっと掴む
「景ちゃん.....」
全珍しく感情的な声を出した景に全員が反応したが、最も驚いているのは爽馬だった
「何で.....何でそんなに聞き分けがいいの?なんで爽馬ばっかりいつもいつもいつも自分の一番の感情押し殺さないといけないの?」
「景.....」
爽馬は俯く景の背中に掴まれていない方の手をそっと触れるように添える
その手があまりにも優しくて
涙が溢れて唇を噛み締めた
「.....自分に腹が立つ」
「え?」
「寮に戻ろうなんて言って爽馬を取り戻した気になっていた自分に腹が立つ。精神的には帰ってきてくれたかもしれないけど、本当は学校に戻れない可能性が高いことも、爽馬はちゃんと分かってて.....その場合は潔く諦めるつもりで。その上でただいまと言ってくれていたのなら.....私が爽馬に苦しい思いをさせてしまった。本当にごめんね.....」
爽馬は自分を責める景の言葉に僅かに唇を震わせる
何かいいかけてから口をつぐみ
儚く微笑んだ
景の肩に手を置き「顔上げて」と声を掛ける
そしておそるおそる顔をあげた景を、ふわりと優しく抱きしめた
「責めないで。景の言葉に助けられたことは数え切れないほどあっても、苦しんだ事なんて今までに一度もない」
爽馬の手が、景から貰った形ない言葉のかわりに彼女の背を撫でるように優しく動く
ありがとね
ありがとね
嬉しかったよ
無口な彼からそんな想いが伝わってきて、景は爽馬の肩に顔を押し付けた



