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咲夜がスマートフォンから男子寮Bグループチャットに現在地を送信すると、それにいち早く気が付き返信をくれたのは千加だった
「あ、返信きた」
「お」
『 了解、行きます 』
手短で簡素な文はなんとも彼らしい
景と咲夜は、3人がちゃんと無事でいることを確認出来たこともあり、2倍の安堵で息を吐き出した
「よかった、来てくれるみたい」
「うん.....3人とも動かないで待っててくれたみたいだな。次は俺たちが」
動かず待つ番だ、と咲夜が言いかけたとき
「いた!」
周辺から聞きなれた声がして、2人は辺りを見渡す
まるで横断歩道を渡る小学生のように右を見て左を見てもう一度右を見ると、そこには今までにも何度か見たことのある、深紫色のもやが腰の高さに薄っすらと掛かっていた
“もや”はユラユラと揺れた後、サアッッと左右に開けて一瞬のうちに綺麗に晴れる
そしてその中から出て来た人の名前を、景は小声で嬉しそうに叫んだ
「結斗!」
「見つけた景ちゃん.....!。良かった無事で.....!ほんとに良かった.....咲夜も」
「そう、俺も」
結斗は膝に両手をき、心底安心したように瞳を細める
そして景の元までゆっくり歩くと、その小さな体をぎゅっと抱き寄せた
「結斗.....」
「ん……」
彼は景の呼びかけに声にならない声を吐き出して、さらに強く抱きしめる
彼の大きな背中はまるで子供のようで
ずっと心配してくれていたのだと、不安にさせていたのだと思うと景は感謝の気持ちでいっぱいになった
「ありがとう。ごめんね、心配かけたね」
「大丈夫。景ちゃんも、怖かったけどよく頑張ったね。........で咲夜、グループ(チャット)に位置情報のっけて焦ったように徴収かけてたけどなんかあった?」
結斗は景を右手で抱きしめながら、後ろで口をタコのようにすぼめて腕を組んでいる咲夜を振り返る
屋上から霧姿で校舎下まで降りた後
市河が廃校舎の位置情報を送ってきたときのこともあり、メッセージを見てすぐに駆けつけてくれたに違いない
それは有難いが.....
咲夜は一瞬目をしかめると
「お前じゃない!」
一言そう放った
「ええええ」
「顔割れてるから早急に霧になっといてもらえると助かるなぁ」



