生徒だけど寮母やります!2

その日の夕方


私は伊吹家のリビングにて家族の会話を聞いていた



『お母さん、今日の夜に結斗が帰って来てくれるって』


『みず.....き、結斗が.....?』


『そうよ。寮に一晩だけ外出届けを出したから泊まっていくみたい。久しぶりに会うのに、元気じゃなくてどうするのよ。ほらご飯食べて』



二十代半ばの娘が憔悴した母親にそう声をかけたのを聞いて、私はペチペチとリビングを歩く足を止めた



結斗.....

恐らくこの家の息子の名前だ



学校、寮という単語からしておそらく彼が通っているのは私立魔術妖術高等学校の魔術科


となると、学校にて妹の景と関わりがないとも限らない


もっといえば、景のことだ

男子寮で手伝いなんかしていたら、同じ学年やクラスでなくても存在を把握されているだろう


その場合、自分のこの姿を見られれば、全く同じシベリアンハスキー姿の景を一度でも見たことがある人ならすぐに勘付いてしまう


念のために、伊吹家から出ていく必要があった


そしてその時に、イチゴ型USBメモリを持ち出せばいい


そう考えた私は首輪に内蔵されたボタンを押してSOSを出し、月沼夫妻に「遊びに連れていってもらう」という理由で一時回収して貰ったのだ


イチゴ型USBメモリを小高幹部に託すとともに.....




そうして一旦回収された翌日土曜日の正午に、私は再び月沼夫妻に連れられて伊吹家へと戻った



「月沼さん、ハナちゃんを遊びに連れて行ってくれてありがとう。本当に.....ありがとう。今の私たちじゃ、ハナちゃんと遊んであげられなくて」



家から出て来たのは伊吹家の奥さんだけで


体と気の弱い彼女はそれまで寝室で休んでいたのだろう、やつれた顔をして私を引き取った



「何言ってるの。ハナちゃんを託したのは私たちなんだし。いいのよ、大変な時期でしょう?たくさん頼ってよ伊吹さん」


「そうそう、ハナの事だけじゃないぞ。そう、旦那さんにも伝えておいて」



月沼夫妻は2人して温かく優しい夫婦を演じ、伊吹家の奥さんに微笑む



純粋で疑うことを知らない

きっと箱入り娘だったであろう伊吹家の 奥さんが騙されるのは滑稽だったけど


本当は今すぐにでも伊吹グループの崩壊を望む、その憎悪に満ちた本性を隠す月沼夫妻も甚だ滑稽だった



「ハナちゃんおかえり。ごめんね、ママはもう少し休んでいるわね。パパはさっきまで家に居たんだけど.....ちょっとオフィスに行ったみたい。もう少ししたら、パパと、お姉ちゃんも帰るからね」


「ワンッ」


伊吹家の奥さんは私を人気のないリビングに放った後、また寝室へと戻っていった