鈴菜は目を丸くする
「え?」
呟いた咲夜は儚く優しい顔つきだったが、彼女に顔を向けた途端ニヤッと笑って覗き込んだ
「意外?」
正直言ってその通りだった
「小高爽馬が.....景を?」
驚きに言葉を失う鈴菜を見て、咲夜は口を開く
「つまりさ、九雷さんは俺たちが、周りに影響を受けて景が好きだと錯覚してるんじゃないかって言いたかったんだよね?」
鈴菜はぎこちなく頷いてから、間を空けて首を振る
「まぁ、感情なんてそんな簡単に言い表わせるもんやないけどな。でも、大体あってる。そう言いたかった」
横で納得したように深く頷く咲夜を苦い顔で見ると、鈴菜は長めの瞬きと共に視線を伏せ
申し訳なさそうに言った
「でも全然、間違ってたな」
掠れ声で言ってから上を向き、一気に残りのコーラを飲み干す
手の甲で口元をぬぐいながら、余裕があるのか何を言われても特に自分を責めるようなことをせず、うろたえもしない咲夜を大人に思った
あれ.....この人
こういう人?
「布川君さ、景を好きか聞かれてすぐに答えなかったやろ。それは好きの気持ちが錯覚やって、本当は心のどっかで分かってるからやと思った」
「うん」
「でも違うんやな。うちは景のことなら分かるけど、あんたら男子寮Bの男子たちのことは分かってないことを、分かってなかった。
あんたら相当厄介やな。お互い絆が強すぎて、恋と友情を天秤に掛けずにはいられんのとちゃう?
普段から感情を見せなかった小高爽馬が景を好きなんて知ったから、家族の中に居場所がなくて孤独な火野が、家が経営不振で疲弊した伊吹が、他のみんなが景にどれだけ助けられてるか知って、強く想ってるか知って.....出て行けなかったんやな」
言い終わってから視線を咲夜に向けると、そこには切なそうなのに嬉しそうな表情の彼が
自分を見ていた
「何笑ってん」
「いやー?なんでわざわざ人の気持ちをズバッと言葉にして確認してくるのかなぁと、意地悪だなぁと思ってさ〜」
「なっ.....」
鈴菜は慌てて手をブンブン振り
「いやその、ごめん」
と謝る
普段冷静な彼女が珍しく焦る姿に咲夜は笑うと
「ううん、嬉しいよ」
満足そうに言った



