結局赤ちゃんの命には変えられず、それを承諾して子供を産むことにしたのよ。


そんな時に、彼女は泣きながら私に電話をかけてきたの。高校卒業以来、四年ぶりに話した彼女は疲弊しきっていたから驚いたわ。


それから毎日.....その頃私はまだ昼間は保健室で働いていたから、夜に彼女と電話してね。休日にはお腹の大きくなった彼女を訪れたりもした。


見ているのは身が裂くように辛かったわね。その膨らんだお腹の中の愛おしい赤ちゃんは、生まれたら手放さなくてはならないですから。


お腹を撫でながらたまに見せた彼女の微笑みが、今でも頭から離れないの。


そしてとうとう出産直前になって、彼女は私に頼みごとをしたのよ。



『先生、お医者さんに、赤ちゃんが生まれたら出生届は先生に渡すように言っておくね。だから、私の代わりに市役所に届けて欲しいの。

赤ちゃんの名前は、片仮名で《ライ》にしてね』


って、学生に戻ったような無邪気な笑顔で頼んでくれたの」