人が犬に頭を下げるのもおかしな光景である


景はぽんっと人間の姿に戻ると、ふぅ、と一息ついてから首を振った


「謝ることじゃないよ。それに、ここでは私は先輩じゃなくて寮母だから、景先輩なんて呼ばれるとくすぐったいな」


そんな景に満宵は

「じゃあ、ボク、景ちゃんって呼んでもいい?」

と目を輝かせた

「もちろん!」


そんな光景を、結斗は嬉しそうに、そして少し寂しそうに見つめている


「‘‘景ちゃん”はお前だけの呼び方だったけど、残念だったな」

横にいたライが正面を向いたままそう呟き、結斗は肩をすくめた


「羨ましかったなら君もそう呼べばいいのに?」


「は?」


ライは横目で結斗を睨んでから、また視線を前に戻す


「でも、異様に寮母さんがこの寮の人たちと仲がいいから、それに見た目も若いし。ちょっとそんな気はしてたんだよねー」


景は千加にそう言われ、「そうだね、私の見た目なんてまだ子供だし」と笑った


「いやー、中卒でお金がなくて働いてる子なのかとか考えたんやけど」


弥隼の言葉に、市河が「うーん、そりゃ苦労人だ」と唸る


確かにそれもあり得ない話ではない


「でも、あながち間違ってないよ」

「せやな、お金がないわけやないけど、生徒やりながらこの歳で働いてるんやし」


千冬と弥隼がそんな会話を交わしてる時