「ただいま.....みんな」


景が苦笑いしながら言った挨拶にかぶせ、マナはガタリと椅子から立ち上がった


「笠上さん.....!どうしたのそれ!」


ソファまで景を運ぶと、そっと彼女を降ろすライに代わって答えたのは結斗だった


「実は爽馬にやられたんです。なぜか小高家に着く前に、その途中の道で対峙する形になって戦いました」


「小高くんに!?」


千加、千冬、満宵は予想通り出てきた『爽馬』の名を聞いてピクリと反応した



「それで.....俺ら最後の最後に油断して、景を守れなくてさ。結局、爽馬は消えたし」

続けて咲夜がしんみりとそう呟く


そんな彼らに景はソファ越しに顔を覗かせると

「でも、包帯が紅いから大怪我したように見えるかもしれないけど、そんなことなくて、血は全然とまってるし。ライがお姫様抱っこしてくれたのだって、みんなが心配しすぎるからなんだよ。..........心配かけてごめんね。ごめんなさい、斎藤先生」

そう謝った


そんな彼女の元に市河が包帯と消毒を持ってくる


「景、勝手に寮母の部屋入って消毒持って来ちゃった。包帯取り替えようか」


「ありがとう日向」


本当は足も心も痛いはずなのに、景はなんでもないような顔で傷を見つめている


市河も、怪我をした景の前では明るく振舞おうとしているのか

「ちょっと我慢な」

と言って微笑んでいた


そんな光景に、満宵が耐えきれなくなったようにガタリと椅子から立ち上がった


その音に驚いて

そしてその音を立てたのが満宵だったことに驚いて、全員がそちらを向く


満宵は唇を少し震わせながら、ルークの目を見て言った


「ねぇルーク、僕聞いたんだよ。盗み聞きみたいになったことは申し訳ないけど、君が『爽馬』って人と電話してるのを。それで、小高家に向かう景ちゃんたちを阻止するように指示してるのを」


「「..........!!」」


景の包帯を交換していた市河の手が止まり、景と市河は顔を見合わせた


「今.....何て.....」


結斗、ライ、咲夜も言葉を失ってルークを見る


マナと弥隼もこの急展開に頭を混乱させながら、絶句しているようだった


ルークは表情を変えず

「なるほど」

と呟く


「ルーク。今のままじゃ、僕、君のこと何も分からない。

だって、もし君が小高爽馬に電話して教えなければ、景ちゃんは怪我しなかった。
でもまだ、同じ魔術科の、同じ寮の友達だと思ってるし、これからもそうであって欲しい。お願い.....弁解して。どういうことなのか」


満宵の言葉に対し、ルークは暫く俯いて黙ったままだった


そのわずかな時間は

途方もなく長かった



そして、彼は顔をあげると、景を見つめてこう言った


「今まで小高爽馬がしたこと、何もかも。.....それは..........全部君のためだった、景」


その言葉に、全員が息を飲んだ


「もちろん、俺がここにいるのも君のためだよ。でも、こんな話.....急に言われても困るデショ。信じるかどうかは任せるよ」