偽悪役者

「……玲斗。気持ちは嬉しいけど、私は誰とも付き合う気無いって前にも言ったでしょ。」



体を無理矢理引き離し、告げた言葉は昔と同じ。



「全く…綺麗なスーツが台無しじゃない。ほら、これでちょっとはマシになった。」



スーツをハンカチで拭く。

若干濡れてしまっていたが、見た目はもうほとんど分からなくなっている。



「静音…」


「ほんとに戻らないと岨聚が怒る。ほら早く。」



玲斗の向きをクルリと変え、静音は背を押す。



「…分かった。これ僕の名刺。終わってからでいい。連絡待ってる。」



これ以上しても押し問答になるだけだと、玲斗は名刺を渡して会場に戻った。



「静音。」


「大丈夫?」



「シノさん、椎名さん。」



玲斗が過ぎ去るのを待って、篠宮と椎名は話しかける。



「諦め悪すぎですよねー。男って皆そうなんですか?」



玲斗との会話が筒抜けなのは分かっているので、神妙な顔の2人を和ませようと静音はおちゃらける。



「……大丈夫です。そんな顔、しないでください。分かってたことですから。」



それでも変わらない表情なので、静音は安心させるように言う。