「はぁ」
菜花との電話を切ったあと、大きくため息をついた。
嬉しそうだったよな、あいつ。
そんなに俺の部屋が見たいのかよ。
弾むような菜花の声を聞いたら自然と頬が緩んだ。
だけど、最近本当に忘れていることが多くなって来た。
春休みに一緒に桜を見たこととか、話した内容の一部を忘れている。
それだけじゃなくて、ありとあらゆる些細なことも。
……大丈夫だ。
菜花は絶対大丈夫だ。
何も問題ない。
俺を好きでいてくれたら、それ以上のことは何も望まない。
現にさっきだってあんなに嬉しそうだったじゃねーか。
大丈夫だ。
根拠のない言葉を何度も繰り返して、自分に言い聞かせる。
そうでもしないと、何かに押し潰されそうだった。
「琉衣斗、ご飯だよ〜!」
階下から姉貴が俺を呼ぶ声がした。
リビングに行くと、アメ、ハレ、ユキが嬉しそうに俺に飛び付いて来る。
3匹とじゃれ合っていると、やっぱり菜花のことが頭によぎって無性に会いたくなった。