ーーーその日は雨が降っていた。
白黒の服を着た沢山の人が並んでいた。
写真を持った翼咲。
いつもきちん整えた髪は乱れていた。
一瞬誰だかわからなくなる程に。
そして少しずつ、いろいろなことが狂っていった。
翼咲はあれ以来、音信不通になった。
家に行けば居るのだが反応はない。
電話にも出ない。
樹乃は自分に出来ることはさせて欲しい。
もっと頼って欲しいと強く願った。
翼咲の父と母が亡くなってから一ヶ月が過ぎた。
休日の昼過ぎ、樹乃はだらしなくベットにもたれ掛かる。
すると、ずっと聞きたかった着メロが携帯から鳴る。
「もっもしもし!?翼咲!?大丈夫なの!?」
「樹乃………ずっと連絡しなくて、ごめん」
力ない翼咲の声が聞こえる。
一ヶ月ずっと待ち続けていた翼咲からの電話だ。
「翼咲、ボクにできることがあれば何でも言って?力になりたいんだ…」
「ふふ…ありがとう。
じゃあ………一つだけ………」
「なにっ!?」
携帯を握る手に力が入る。
そして少しの沈黙のあと、翼咲は言った。
「私の願いを叶えるために、どうしても樹乃の力が必要なの…………」
「私の……力が………?」
「今日の夜、11時に廃工場に来て…待ってるから」
「あっ」
電話は切れてしまった。
いつもの翼咲ではありえない切り方だ。
でも、それ以上に翼咲に頼ってもらえることが嬉しくて、いつもの翼咲ではないことには気づくことが出来なかった。
