二人の小林君


「どういうこと?」

「ほら、家庭科で作ったお菓子をわたそうとした人みんな断られたでしょ?」

「うん……」

みゆきが横を向いて窓を見る。

つられるように私も窓のほうを見るとちょうど目の前の道を同じクラスの女の子が二人通り過ぎて行く。

小林君にお菓子をわたそうとしていた人の中に今の二人もいたような……。

「一昨日部活の後に先輩マネとかから話を聞いたんだけど、小林くんが小林優斗のライブ会場でアルバイトしているのを知っている女子は少なくないみたいでね。小林優斗に近づけたらいいって小林くんにお菓子をあげようとしている人が多いんだって」

「え……」

私が気づいたのは昨日のライブでだけど、他の人は前から気づいていたのかな……。

「高校入学して少ししてからそういう女子がい始めたらしいんだけど、いつの間にか誰からも受け取らなくなったんだって」

「そうなんだ……」

だから昨日の私もそうだと思って様子が変わったんだ。

「香織のことも誤解してそう思ってるんだと思う」

「分かってもらうにはどうすればいいんだろう……」

「もしかしたら女子と何か嫌なことがあったのかもしれないね」

「好きでいるのは諦めたほうがいいのかな」

今までずっと持ち続けた気持ち。

だけど嫌われるくらいなら何も言わずにいたほうがいいような気がして。

暗い気持ちになる私とは反対に笑顔の店員さんが「お待たせしました」とスパゲティーを二つテーブルに置いて離れていく。

注文していたスパゲティーはやっぱり美味しそうで沈んでいた気持ちがちょっとだけ浮き上がる。

「とりあえずこれを先に食べちゃおう。──いい? このまま諦めるなんてダメだからね!」

「みゆき……」

「わたしは応援してるから」と綺麗に笑ってフォークを手に持つみゆきに胸がポカポカと温かくなって。

「ありがとう」と返して私もフォークを手にとった。