みゆきは廊下で立ち止まった小林君のまわりに集まる他の子達の間に難なく入りこむ。
私だったら背が低いから埋もれちゃいそうだけど、みゆきは他の子達よりも高めで離れていても分かる。
小林君は受けとってくれるかな?
ゆっくり歩いていても教室はどんどん近づいて、ついに小林君達のすぐ近くになる。
みゆきと話していた小林君が顔をあげてこっちを向いた。
だけど困っているような顔の小林君にダメなんだと分かる。
「多田さん、悪いけどこれは受け取れないから……」
袋を持つ手を私の方に向けてくる。
私は走り寄ってお菓子の袋を受けとった。
「私こそごめんなさい。今朝のお礼がしたくて」
勢いよく頭を下げると後頭部のてっぺんで結んでいるポニーテールの髪が揺れる。
「今朝は本当にありがとう……っ」
断られるかもしれないって思ってたけど、好きな人にきっぱり断られるとやっぱり悲しい。
目がじんわりしてきて泣きそうになっているとポンと肩を軽く叩くように触られて、「顔をあげて」と小林君の優しそうな声がする。
「気持ちだけもらわせてほしいんだ。他のみんなも悪いけど受け取れないから」
おそるおそる顔をあげると、小林君は困っているような申しわけなさそうな、そんな感じの表情で。
他の子達は「残念」、「ダメかー」などとあっさり離れていく。
一人二人とその場からいなくなって私とみゆきと小林君だけになった。
小林君も他の子達に続くように「受け取れなくてほんとにごめん」と残して教室に入っていく。
「香織ごめん! まかせてなんて言ったのにわたせなくて……っ」
「ううん。お礼が言えただけでもよかったからありがとう」
泣きそうになっているみゆきにありがとうって気持ちになるけれど悪いなんて思わない。
お礼は言えたからそれだけでもよかった。
だけど誰からも受けとらないのはもしかして好きな人がいるから……?
そう思うとやっぱり悲しいけれど。
明日の優斗君のライブは小林君のことを考えずにただ思いっきり楽しもう。
今の私には気を紛らわすにはそれくらいしか思いつかなくて。
みゆきに連れられて教室に入りながら私は明日の休日に思いを飛ばした。