二人の小林君


別れの言葉がないほど慌ただしくお店を出て行った優斗君。

私達も優斗君を見送った後すぐにお店を出て街の通りを歩く。

「アイドルの素顔ってみんなあんな感じなのかな?」

眉を寄せたかと思ったら少し先を歩き出すみゆき。

「会う度にキャラぶれてるし素顔はクラスの男子と変わらないのかも」

「優斗は昔からあんな感じだから。だけど今の仕事がすごく好きで真剣みたいだからキャラ作りは許してやってほしいかな」

困ったように笑う小林君の顔はみゆきから見えていない。

だけど「一生懸命やってるならいいんじゃない?」と返すみゆきの声は明るくて、私は「そうだね」と笑った。


***


帰る途中でみゆきと別れた私と小林君。

二人きりで歩くことに緊張して運動しているみたいにドキドキする。

小林君も私も無言。

だけど繋がれている手が恥ずかしいけど温かくて、今までと違うんだって思えるから。

長いような短いような時間が経って私の家の前に着く。

「送ってくれてありがとう」

「気にしないで。一緒に帰れて嬉しいから」

わっ、ふわって優しそうな笑顔を向けられてすごく照れる。

でもそう言ってもらえて同じくらい嬉しい。

「わ、私も嬉しいよ……小林君?」

ふと笑みを引っこめて真剣そうな表情の小林君がじっと見つめてくる。