昨日までの私なら優斗君の笑顔をじっくり眺めているのに、今は小林君が助けてくれた時のことで頭の中がいっぱい。

去年、廊下で具合が悪くなった時に近くにいて保健室まで運んでくれた小林君。

違うクラスで親しいわけでもなかったのに放課後に様子を見にきてくれた。

その時に「大丈夫そうでよかった」って優しそうに笑ってくれて、私はその時から小林君のことが好き。

だけど話しかけることすら上手くできなくて、偶然本屋さんで見かけた雑誌の表紙を飾る優斗君の笑顔が小林君と重なった。

それ以来私は優斗君のライブに行ったりしてる。

優斗君は小林君じゃないって分かってるけど、似ている笑顔を向けられることが嬉しくて……。

椅子に座り直したみゆきが私の顔をじっと見てうんうんと頷いた。

「ついに本命の小林くんと進展があったわけね」

「どうだろう……。小林君とはすぐにバイバイしちゃったし」

私が小さい声で言うとみゆきが「え!?」と声を出して机をバンバンと叩く。

「そこは話すチャンスでしょ?」

「でも登校中だし迷惑かなーって」

私があははと笑うとみゆきは「もったいない……」とため息を一つ。

私はめげずに「でもね」と続けた。

「頑張って小林君に助けてくれたお礼を何かしようと思うんだ。何がいいかな?」

「洋菓子とかは? 今日の三、四時間目は家庭科だしちょうどいいんじゃない?」

「……うん。ラッピングもするって先生が言ってたしそうしようかな」

緊張するけど頑張らなきゃ……!

一時間目が始まる前から緊張でドキドキしだしているとみゆきが雑誌の表紙を指でトントンと叩く。

「この雑誌はどうする? いらないなら他の人のところに持っていくけど」

「えっ、もちろんいるよ! 私が頼んだし」

「……現実逃避はまだ続きそうだね」

みゆきのため息混じりの言葉を聞きながら、私はみゆきが買ってきてくれた雑誌のお金を払おうとスカートのポケットから小銭入れを取り出した。