静かだけど確かに感じる人の気配に意識が向いて気になる。
保健の先生は熱をはかると少し用事があるからと職員室に行ってていないし。
「……多田さん。もし起きてて辛くないなら聞いていてほしいんだ」
え……?
ポツリと小さな声で話し始める小林君。
聞き逃さないように意識を集中した。
「ライブ会場でキツくあたってごめん。多田さんが小林優斗のファンなんだって思ったらすごいムカついて」
どうしてそんな風に言うの?
小林君には好きな人がいるんじゃないの?
そんなこと言われたら勘違いしちゃうよ。
「多田さんのことは去年保健室に連れて行った時より前から知ってた。村井さんと楽しそうにしてるのを見かけて気になってて、今年同じクラスになれて嬉しかった」
小林君が続けて話す言葉は嬉しいものばかりで、私が熱を出していて都合いいように聞こえているのかと思っちゃう。
「多田さんのことが好きなんだ。もし聞いているなら多田さんの気持ちを聞きたい」
ガタガタと椅子を動かすような音がして服がすれるような音が続く。
それから聞こえた足音がピタリ止まった。
「いつまでも待ってるから」
そう言い残してドアの音がした後に遠くなる足音。
そっと毛布をずらしても小林君の姿はもうないけれど彼の声が、言葉が耳に残ってる。
小林君が私を好き……?
夢のような話に胸がドキドキと苦しくなって体が熱い。
嬉しい気持ちと信じられない気持ち、それから一緒にいた女の人は誰だろうという不安な気持ちが頭がぼんやりとする中で生まれている。
うー……、熱が上がってきたみたいで頭が痛い。
これじゃ何も考えられない。
とにかく早く風邪を治さなくちゃと心の中で強く思い今度こそ眠ろうと目を閉じた。