雨の中を走った水曜日。
──次の日風邪を引いたみたい。
「香織、大丈夫?」
「うん……」
朝から体は怠いし頭はぼーっとして上手く働かない。
心配そうにしてくれるみゆきにお礼を言う余裕もなくて。
小林君が知らない女性といたのを見たことが悲しくて雨の中を走ったなんてことも言えないまま。
お昼休みの今、私は机に顔をつけて突っ伏した。
「午後は体育だし早退したくないなら保健室で休んだほうがいいよ」
「ん……」
さすがに体育は出られそうにないからみゆきの意見に賛成。
何とか椅子から立ち上がって歩こうとしたその時。
え──?
急に体の感覚が変わって目に映るのは眉を寄せて怒ってるような小林君。
何で?
そう思うけど体が動かなくて。
どうやら小林君に抱き上げられてるみたいだった。
「村井さん、俺が連れて行くから」
小林君が声をかけるとみゆきから「よろしくね」と返ってきて教室が急に静かになる。
「じっとしてて」と歩き始める小林君に去年と同じだなと思いながら、自由の利かない体が落ちないようにじっとしているしかなかった。
***
「熱がそんなに高くなくてよかった」
保健室で休ませてもらうことになった私はベッドの上。
ベッドの横に椅子を持ってきて座る小林君に「ありがとう」と返した後は沈黙が続く。
気まずくなった私は薄手の毛布を顔までかぶって寝るんだよーと雰囲気を出してみる。
「…………」
「…………」
あれ……? 教室に戻らないのかな?
静かな時間が続くばかりで小林君が保健室を出て行く様子がない。

