「アルバム発売日だからお店をまわってるんだ」

「大変ですね」

「でもこの仕事好きだから。少しでも長く続けたくて」

照れくさそうに笑う優斗君はステージで見るキラキラした笑顔とは違うけど、本当にアイドルの仕事が好きなんだなって思う。

「優斗、そろそろ時間だ」と告げるマネージャーさんっぽい男性。

優斗君は「そうだ!」と私の手を引っ張ってレジに向かう。

「この子が予約しているアルバムもらえますか?」

「お名前は?」

「あっ、多田香織です」

って、フルネーム言っちゃった。

だけど優斗君には顔と名前を知られてるから今さらか。

ちょっと諦め気味に考えていたら店員さんからアルバムを受けとった優斗君がポケットからペンをとり出す。

何をするんだろうと眺めていたらCDケースにサラサラとペンを走らせた。

「サイン!?」

「今日出会えた記念に」

「はい」とCDを差し出されて受け取る手が震える。

まさか優斗君とまた会えて直筆サインをもらえるなんて。

「あの、ありがとうございます」

「どういたしまして。これからもよろしくね! 店員さんもありがとうございました」

「お疲れ様です。店長にお帰りの旨をお伝えしますので」

時間がないようで男性の声に急かされるように優斗君は急ぎ足でお店を出て行った。

「お会計いたしますね?」

「あっ、すみませんお願いします」

「サインもらえてよかったですね」とバーコードを読みとる笑顔の店員さんに「はい」と返すけど正直ちょっと複雑。

このアルバムで最後にするって決めてるからあんな風に笑顔で言われたら……。

──だけどこれで終わりって決めたんだ。

優斗君には悪いけどこれからはこっそり気持ちだけで応援させてもらおうと思う。