「俺の話に合わせて」と小声で言う彼が私の手をギュッと握ってきた。
「遅いから心配したんだよ?」
「あっ、ごめんね! ちょっと準備に時間かかっちゃって……」
私がぎこちなく返すと優斗君らしき人は私の頭をポンポンと軽く叩くようになでてくる。
みゆきの「はあ!?」と驚いたような声が聞こえてくるし、女の人の視線がじいっと向けられるしで頭が混乱してくる。
これ以上続けたらバレちゃいそう……!
恥ずかしいやら緊張するやらで頭がぐるぐるしていた私の耳に「ざんねーん」、「彼女持ちかぁ」と残念そうな声が聞こえてきて終わりが見えてきた。
「俺達もう行きますので」
「邪魔しちゃってごめんね?」
「お幸せにー」
笑顔のままの彼に女性達は笑顔で手を振って人の波の中に消えていった。
見えなくなったところで手首をつかんでいた手が離れる。
バレなくてよかった……。
「香織っ。ちょっと! 勝手に彼女にしないでくれませんか?」
ほっと息をついているとみゆきが走って戻ってきて彼を睨む。
「巻きこんでごめんね。ちょうど目があったからつい。──お詫びしたいから着いてきて?」
笑みを深めた彼はまた私の手をつかんで今度は歩き出した。