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お昼を食べて少しファミレスで話をして、小林君のことは彼の様子を見ながら考えようということになった。
みゆきに「諦めたらダメだからね」と言われると頑張らなきゃって思っちゃう。
用事は終わったし帰ろうかと二人で街を歩いていると少し離れたところに人が集まっていて。
近づくと一人の男の人に何人かの女の人がまわりを囲んでいた。
「うわ、逆ナンってやつじゃない?」
「カッコいい人なんだろうね」
小声で言って顔を歪めるみゆきを見る私は困ったように笑っていると思う。
気になる人に積極的に行動できる人って今なら羨ましいなって感じるから。
「ねぇねぇ、私達と遊びに行かない?」
「高校生なの? お姉さん達がおごってあげるから、ねっ!」
「すみません、俺これから予定があって……」
「可愛いー。それに小林優斗クンにそっくりだねー」
え……?
一人の女の人が言った言葉に通り過ぎようとした足が止まる。
それはみゆきも同じみたいだった。
「香織、どう思う?」
みゆきに小声で聞かれた私は女の人に囲まれている男の人に目を向ける。
明るい茶髪に優しそうな垂れた目の人は昨日ライブ会場のステージで見た人によく似ていてビックリした。
「少し離れてるから何とも言えないけど多分本人だと思う」
「だよね。あんなに似てるそっくりさん見たことないわ」
プライベートか仕事の移動中か分からないけど知り合いでもないからどうすることもできない。
「芸能人なら上手く逃げるでしょ」と歩くのを再開したみゆきに続こうと思ったら男の人とバチ、と目が合う。
「あっ、待ち合わせの子が来たのですみません……」
優斗君だと思う人が「こっちだよー」と笑顔で私のほうに手を振ってくる。
私の近くに待ち合わせの人がいるのかなってまわりを見たけど誰もこっちに向かってくる人はいない。
キョロキョロしていたら女の人達の間を抜けてどんどん近づいてきた。
え!?
逃げなきゃと走ろうとしたけれど、それよりも男の人が私の手首をつかむ方が早かった。
「香織!?」
少し離れたところからみゆきの呼ぶ声が聞こえるのに腕をつかまれてその場を動けない。
「あのっ」
「──ちょっと協力してね?」
にこっと優しそうな笑顔を間近で向けられて腕をふりほどけない私は小さく頷いた。