「みゆきっ、聞いて聞いて!」

クラスの人の話し声があふれる朝の教室。

私はみんなに挨拶をしながら、先に登校して席に着いていた友達のみゆきのところへ急ぎ足で近づいた。

「今日は一段とテンション高いけど小林優斗(こばやしまさと)のライブチケットでも買えたの?」

「それはもちろん! って今はその話じゃなくて。電車で知らない男の人に絡まれて困ってたら助けてくれた人がいて──」

少し前に起きたことを眉を寄せながら思い出して言う私に、みゆきが「大丈夫なの!?」と大声を出して椅子から立ち上がった。

「大丈夫!? 変なことされてない!?」

「うん。どうしようかと思ってたらすぐに助けてくれた人がいたから。相手の人は酔ってたみたいで酔いがさめたら謝ってくれたし」

「もう……朝から心臓に悪い……。それで誰が助けてくれたの?」

「それがね、同じクラスの小林君だったんだ!」

アイドルの小林優斗君と同じ名字の小林清也(こばやしせいや)君。

小林君は黒髪に焦げ茶色のつり目、眼鏡をかけている男の子。

みゆきの机の上にある雑誌の表紙を飾っている優斗君は明るい茶髪に垂れた目で、優しそうな笑顔は王子様みたい。