その日から、全てが一変した。
親は毎日のように帰って来るようになり、学校ではいじめの標的から外れた。
その理由なんざすぐに分かった。
自分の子でもない奴を育児放棄し、警察にでも駆け込まれたらどうしようもないから。
ただそれだけのために毎日親が帰ってくる。
本当の親がいない子供、そんな奴が学校へ来たから。
反応なしの俺なんかよりいじめがいがあると思い、俺から神楽に標的を変えただけ。
今まで見て見ぬふりをしてきた奴らも、俺をいじめてた奴らも。
神楽に標的を変えた途端に話しかけてくるようになった。
…だから、正直言ってあの言葉は嘘だったと思う。
「伊織さぁー、神楽といて疲れねぇか?」
いつものように聞き流そうとしていたその言葉に、俺はピクリと反応した。
「は??」
「血は繋がってねぇし、赤の他人だろ?」
クラスメイトにそう言われた時、俺は思わず即答した。
「あぁ。
確かにあいつは赤の他人で弟じゃない。」
そこまで言って、ハッとした。
俺は何を言おうとしてる?
当時の俺にとって、赤の他人なのは神楽だけじゃない。
ここにいるクラスメイトも、親も俺にとっては赤の他人だ。



