百桃「…まま、ぱぱ。せんせいとふたりにしてください」
目尻を下げて両親へ願い出る。
今の子供は"虹羽百桃"だ。
両親はお互いに顔を見合わせ、立ち上がった。
智軌「先生、お願いできますか?」
直樹「…ええ、構いませんよ。前の待合室でお待ちください」
深くお辞儀をして出た夫婦を見送り、彼女に向き直る。
直樹「…で、今度は君から話してくれるのか?"百桃"」
彼らが出ても雰囲気が変わらない。
つまり、今子供は"百桃"のままだ。
百桃「…ぼくは、こんなこと、のぞんでなかった。」
深く後悔しているかのように表情を歪める。
直樹「"アカ"が勝手に出てきたのか?」
百桃「…よく、わからない。ぼくは"アカ"がでてるとき、"ねむっている"から。なにをしてるかわからない」
"百桃"は迷子の子供のようだった。
どうやら"アカ"のように精神的に成熟しているわけではないらしい。
直樹「じゃあ、どうやって彼が出ているのを知ったんだ?」
百桃「…"アカ"が、おしえてくれた。なんで、なのかは、ぼくにはわからない」
…彼女はわからないことだらけだな。
直樹「…君は"アカ"と入れ替わるやり方を知っているのか?」
百桃「…しらない」
……やはり、彼女では話にならないな。
これは"アカ"と直接話した方がよさそうだ。
そう考えた俺は、'眠っている'という"アカ"に話しかけた。
直樹「"アカ"、出てきてくれないか。少し、君と話がしたい。そのためにさっきも出てきたんだろう?」
しばらく待つが、目の前の子供に変化はない。
出てくる気はないのか、と問いかけようとした時、子供の表情が一変した。
アカ「…おい、簡単に言うな。身体(主人格)は2歳児で体力にも限界があるんだ。そう易々とオレが出てこれるようにはなってねぇんだよ」
不機嫌そうなオーラをピリピリと肌で感じる。
そして、どこか気怠そうでもある。
直樹「…なら、"アカ"は何故一度"百桃"に戻したんだ?それだけでもかなり体力を使っただろう?」
アカ「……あの人らとはあまり話をしたくない。
所詮オレは"百桃"の陰(かげ)。この先表に出ることはねぇだろうからな。」
気まずそうに顔を逸らすが、嘘はついていない。