クロ * Full picture of the plan * Ⅳ




…それから、百桃は何も言わず部屋を出ていった。



私はただじっとその部屋から一歩も出ることなく、お兄ちゃんが目覚めるのを待っていた。



でも、何時間待ってもお兄ちゃんが起きる気配がなく、子供だった私はそのまま壁に背を預け、眠りこけた。



そして、目覚めた時には既にお兄ちゃんはいなかった。



部屋はまるで何も無かったかのように元通りに戻っていた。



隠し部屋の扉も閉まっていたが、もう扉を開ける気にはならなかった。



またあんなお兄ちゃんを見るくらいなら…何も知らなくていい。



‥‥そして私は逃げた。



"真実"を知らぬまま、『お兄ちゃんのため』と自身に言い聞かせた。



それが、どれだけ残酷な未来への一歩だったとも知らずに…。



-それから約一年、私が百桃に会うことは無かった。



……いや、違う。



会う機会は何度だってあった。



静まり返った夜中、部屋にいても聞こえるお兄ちゃんの怒鳴り声。



家中に響く、割れる音やぶつかる音。



それが何を表しているのかわからないほど馬鹿ではなかった。



それでも、私は聞こえないふりをし続けた。



何も聞いていない、何も知らない、ただの子供のふりを。



一緒にご飯を食べるお兄ちゃんは、勉強しているお兄ちゃんは、いつもと変わらなかったから。



"百桃"が関わらなければ、いつもの"お兄ちゃん"だったから。



…だからあの日まで気づかなかった。



お兄ちゃんがあそこまで"狂っている"ことに。



葵絆が昏睡状態になってすぐ。



その日はやって来た。



何故そこに私が居たのか、お兄ちゃんと百桃は"何"をそんなに言い争っていたのか、何一つ覚えていない。



けれどあの日犯した私たちの"罪"だけは、鮮明に覚えている。



それは、あまりにも唐突で浅はかな行動だった。



ある日の夜中、ひと一人通らない細い路地の先にある小さな公園に私たちはいた。



虫の声さえも聞こえない中、ただいつもの様にお兄ちゃんの怒鳴り声だけが響いていた。



私はあの時のようにお兄ちゃんを止めることも、百桃を助けることもしなかった。



ただポツンと突っ立って2人の姿を見ていた。



何も、思わなかった。



百桃が可哀想とも、お兄ちゃんが怖いとも、早く終わればいいのにとも。



吃驚するくらい無感情だった。



…そんな中お兄ちゃん怒りは永遠に続くとさえ思えた。その時だった。