…だが、百桃は俺たちとは違った反応をしていた。



まるでその"彼"を知っているかのように、百桃の顔は何故ここにいるのかと、今までに無いくらいの驚きに溢れていた。



そして、それと同じくらいの怯えを含んでいた。



身体を小刻みに震わせ、"彼"から逃げるかのように後ずさりしている。



……こんな百桃は今までで一度だって見たことがない。



下「何しに来やがった!」



下「誰なんだよてめぇ!!」



俺が百桃に目を取られている内に他のみんなは"彼"に怒鳴り散らしている。



葵絆と飛鳥と楓はただただ"彼"を無言で睨み続け、雷や他の下っ端は完全にキレている。



"彼"をどうにかしなければ。



そう思っても、どうしても百桃の反応が引っかかって動くことが出来なかった。



全員が全員、突然現れてニヤリと笑う"彼"が何を仕掛けるのかと脅えてその場から一歩も動けない。



口では言えても、それは距離があるから言えてるだけで、雷たちも近づくことはしない。



睨み続ける俺たちと余裕そうに笑う"彼"の間には、少なくとも俺たちは動けない重い空気があった。



そんな中でも普通に立ち入ってくる"彼"は俺たちを"敵"とすら見ていないような気さえした。



…けど、"彼"が一歩立ち入ってくれたお陰でこっちも動けるようになった。



そして初めに仕掛けたのは、雷だった。



ダッ -ブンッッ



ドスッ



雷「う"っっっ!!げほっげほっ」



葵絆「雷っっ!!!!!!」



……一瞬、何が起きたのかわからなかった。



雷が"彼"に向かって殴りかかったはずなのに、"彼"はその場から一歩も動いていない。



それどころか、雷が攻撃を受けている。



でも、何故雷がたった一発の"彼"の攻撃で立ち上がらない?



…雷は"彼"に自分から仕掛けたのだから返ってくることも予想していたはず。



それなのにも関わらず、だ。



腹を抱えて苦しむ雷に思わず駆け寄った葵絆を俺は呆然と見ていることしか出来なかった。



葵絆「おい!雷!!大丈夫か!?」



雷「っっ……ぃ…」



必死で葵絆が話しかけるが雷は呻き声しか上げない。



あの雷がこうなるくらいだということは、そのくらい"彼"の一撃は重かったのだ。



恐らく雷も俺たちも今までで受けたことのない重さの。