メンバーのことを大切に思う嘉人くんの気持ちは、3日前の電話でよく知ってる。

いきなり神田さんとの食事に誘われたことに驚いたのは事実だけど、神田さんの気持ちも汲んだうえで私に許可を取る辺り、嘉人くんの人の好さが現れていると思う。


数分歩いてやってきたパーキングエリア。

もう見慣れてしまった彼の車の近くまで歩いて立ち止まった私を疑問に思ったのか、運転席のドアを開けた嘉人くんが私の方へ振り向いた。


『どうした?乗って行かないの?』


彼の言葉に首を縦に振ると、嘉人くんは戸惑いがちに運転席のドアを閉めて私の元に近づいてくる。


『家まで送るよ。もうこんな時間だし。』

「ううん。駅も近いし、電車で帰るから。」

『でも、』


それも、嘉人くんなりの私への――というか、女性への気遣いなのだろう。

でも、仕事を抜け出してやってきたという彼の言葉を聞いたとき、一人で帰ると決めていた。


「今日は、日光のお土産と、ストップ、渡しに来ただけだしね。」


はい、と笑顔で彼の目の前に差し出した、2つのサイズ違いの袋。


「そのおっきい紙袋に入ってる菓子折りは、メンバーの人たちにも分けてね。…味は保証できないけど。」


そうおどけて言って見せるものの、実は土産屋さんで再三悩んで試食までして選んだものだった。


『ありがとう。』


ちょっと戸惑いつつも、受け取ってくれてホッとした。


「ちゃんと辛くないもの買ってきたから、安心してね。」

『フッ、そこまで気にしなくてよかったのに。…でも、本当にありがとう。お土産も、それと…ストラップも。』


私が付けてるみたいに、スマホに付けると言い出す嘉人さんに、それはやめたほうがいいんじゃない?と牽制するけど、そうすると言って聞かない。

付けてくれるのは嬉しいけど、男の人がビーズアクセをスマホに付けてるっていうのはどうなんだろう?


「――じゃあ、この後もお仕事、頑張ってね。」

『…うん。本当に送って行かなくて大丈夫?』

「大丈夫、大丈夫。これでも私、毎日電車通勤なんだよ?じゃあ、またね。」


これ以上話していたら、強引に車で送られることになりそうだ、と思った私は、早々に話を切り上げて、彼に背を向けたのだった。