煥先輩はわたしのカバンを持ったまま歩き始めた。
「あ、あの、わたしのカバン……」
「煥に持たせておけばいいよ」
文徳先輩の声が至近距離から降ってきた。
まずい、わたし、抱き付いたままだ。
顔どころか、全身が熱くなっていく。
慌てて離れようとするけれど、足下が定まらない。
「ああぁぁ、ご、ごめんなさい」
「無理しないで。支えたら、歩ける?」
文徳先輩がわたしの肩を抱いてくれている。
ドキドキして、口から心臓が飛び出しそうなくらいなのに、なぜか安心する。
緊張のドキドキとそれとは違うドキドキが胸の中でマーブル模様に混じり合って、苦しくて切なくて温かくて。
守ってもらってる。
嬉しい。恐れ多い。
やっぱり嬉しい。



