「兄貴はめったに本物を出さない。表の顔で押し通す。本心を見せないのが兄貴の戦略だから」
言葉の続きを待ってみる。
でも、煥先輩は黙ってしまった。
結局どういう意味なんだろう?
文徳先輩の本心を見てほしいってこと?
それとも逆?
表の顔に憧れるだけなら軽い気持ちで近寄るなってこと?
突っ込んで質問してみたい気がした。
でも、時間切れだった。
「ごめん、二人ともお待たせ!」
文徳先輩が生徒玄関から走り出てきた。
わたしは笑顔をつくり直した。
「お疲れさまです。空を見たりしていました。月がキレイですよね」



