目の前に、黒いジャケットの背中。
使い込まれたものみたいで、ジャケットの本革の表面に小さな傷がいくつもある。
「オレの腰につかまれ」
「えっ?」
「振り落とされたいか?」
「イヤです。でも、煥先輩……」
体に触れられるの、苦手でしょう?
「いいから、つかまってろ。荒い運転はしねぇつもりだ。ただ、このマシンのパワー自体がハンパじゃない。気を付けてろよ」
「……はい」
わたしは煥先輩の腰に腕を回した。
一瞬だけ、煥先輩が体をこわばらせた。
「最初からこうすりゃよかった」
「え?」
「バイクなら、間が持たないなんてこともない」
それはどういう意味かと訊くより先に、バイクが動き出した。



