煥先輩はフルフェイスヘルメットをかぶった。
座席の下から、もう一つ、顔までは覆わないタイプのヘルメットを取り出して、わたしに渡した。
わたしはヘルメットを頭に載せた。
あご紐を留めようとして、もたもたする。
「じっとしてろ」
煥先輩の手が伸びてきて、わたしは息を止めた。
パチンと音がして、あご紐のキャッチが留まる。
煥先輩の指先が、触れそうで触れなかった。
「あ、ありがとうございます」
「こいつも着てろ」
投げ渡されたのは、黒いウィンドブレイカーの上着だ。
手に取った途端、ふわっと匂いがした。
あったかいような、くすぐったいような匂いだった。



