ふと、わたしは伊呂波先輩の大荷物に気が付いた。 左肩に引っ掛けた、黒い大きなケースだ。もしかして、ギター? 「伊呂波先輩って、楽器をされるんですか?」 「ああ、バンドやってるんだ。ギターだよ」 「バンドまでやってらっしゃるんですか! 素晴らしいです!」 伊呂波先輩が白い歯を見せて笑った。 社交辞令的な笑顔じゃなくて、今のは本物の笑顔だ。 「楽しそうなことを全部、やってみてるだけだよ。実際、バンドはとても楽しい」 「いいですね。充実した高校生活、うらやましいです」