イヤな予感がした。
海牙さんの位置からこっちの屋上まで、十メートル以上あるはずだ。
ちょっとジャンプしてまたげる距離ではない。
「無茶だろ」
煥先輩も同じことを思ったようで、そうつぶやくのが聞こえた。
海牙さんは短い助走をして、跳んだ。
わたしは悲鳴を呑み込んだ。
緩い弧を描いて海牙さんが跳ぶ。
無茶なチャレンジなんかじゃなかった。
海牙さんは悠々と、こちらの屋上に着地した。
身長よりも高いフェンスをするすると上って、フェンスのてっぺんから跳んで、音もなく降り立つ。
「お待たせしたようで、すみません。途中でちょっと道に迷ってしまって」
海牙さんは駆けてきた。
ゆっくり走っているように見えたのに、あっという間に距離が縮む。
一歩で進む距離が異様に大きいんだ。



