文徳先輩がマイクに声を通した。
「煥、そろそろ出てこい。ライヴ、始めるぞ」
歓声と拍手が起こった。
煥先輩が隅のベンチを立って、歩いてくる。
前髪の下の表情が見えない。
音楽が始まる。
どんな曲なのか、もう知っているのに、わたしは音に引き込まれる。
無関心な雑踏に、突き刺さる瑪都流の音色。
雑踏が、息をひそめるほどに耳を澄ます。
明るさと棘と切なさと闇を秘めた旋律。
ギターの叫び、ベースの鼓動、ドラムの律動、キーボードのきらめき。
煥先輩の声。
ほどけない夜の葛藤を、そのままに歌う姿。
最初に聴いたときよりも、わたしは射抜かれる。



