コンコン、とノックの音が聞こえた。
扉の向こうから声がする。
「鈴蘭《すずらん》お嬢さま? お目覚めでしょうか?」
メイドさんの声。
ああもう、父も母も過保護なんだから。
一人で起きられるって、何度も言っているのに。
「おはよう。起きてます。着替えてから食堂に行く、と母に伝えて」
「かしこまりました」
わたしはため息をついた。
生まれてこのかた十五年、お嬢さまをやっています。
この家は少しばかり普通ではないのです。
我が安豊寺《あんぽうじ》家は由緒ある名家なのです。
昔は爵位もありました。
でもね、わたし、安豊寺鈴蘭は自分の力で、自立した女性になりたいの。



