泉は無駄に疲れたと足取りを重くして、とあるバーの扉を開く。

 その店は、華やかな電飾が並ぶ通りから少し奥まった場所でひっそりと営まれていた。

 店内に足を踏み入れると、上品な音楽が遠慮気味にスピーカーから流され心地よく耳を刺激する。

「あ~ら、キョウちゃん。いらっしゃーい。元気だった?」

 シンプルな青いドレスを着こなした、体格の良い厚化粧の人物が野太い声で泉を歓迎する。

 伸びる腕には見事な筋肉のラインが走り、そこから続く手は無骨で大きい。

「まあな。その呼び方はやめろ」

 乱暴にテーブル席に着くと、不機嫌に店内を見回した。