泉は雑多な観光地から少し離れ、木々が立ち並ぶ静かな一角に足を踏み入れる。

 時折、はしゃぐ声が聞こえるものの、風に揺れてこすれる葉の音が気分を落ち着かせた。

 そろそろだなと腕時計を一瞥する。

「イズミ」

 背後から名を呼ばれ振り返るとブラジル系だろうか、うす褐色の肌の男がやや緊張気味に歩み寄ってきた。

 濡羽色(ぬればいろ)の髪と瞳に彫りの深い顔立ち、黒のストレッチパンツは青いストライプが入った前開きの長袖シャツとよく合っている。

「持ってきたか?」

「ああ、もちろん」

 二人は顔なじみのように互いに手を上げて軽く挨拶を交わし、男は薄い黒鞄を開けてタブレットを差し出した。

 泉はそれを受け取ると、さっそく起動させて中身を確認する。