これほど魅力的な人間に今まで出会ったことがない。

 唐突な出会いについぞ足は動かず、気がつけばその影を見失っていた。

 消えた影を追うように足早に歩み寄るが、周囲を見回しても僅かな気配すらまるで感じられない。

「──幻覚、じゃないよな」

 さすがに俺もそこまでボケちゃいない。

 まさか見とれているだけとはと自分の不甲斐なさに呆れて溜息を吐き出し、眉間に深いしわを刻んだ。

 追える要素が一つもないことに苦々しく舌打ちする。

 獲物を逃がしてしまったことに悔いは残るが仕方がないと切り替えてタイダルベイスンをあとにした。