丁度この時期、アメリカでは全米桜祭りが開かれており、タイダルベイスンは世界的な桜の名所ともなっていた。

 海外を飛び回る泉にとって、日本を懐かしむ場所ではある。

 とはいえ、日本のように屋台がある訳でも、ブルーシートを敷いて焼き肉や飲み会をしている者がいる訳でもなく、皆それぞれに満開の桜を眺めて楽しんでいる。

 一体、何本の桜が植えられているのか正確な数までは解らないが入り江の沿岸に沿って並ぶ花々は壮観のひと言だ。

 四千本ちかくあるというのだからそれも頷ける。

 これが本来の花見なのではないだろうかと、男は数え切れない桜に目を細めた。

 桜は水面までをも彩り、これから行われるパレードを華やかにしてくれるだろう。

 もちろん、泉はそれを見るつもりまではない。

 二十八歳の男は身長百八十五センチと日本人にしては高めで鍛えているせいか体格もほどほどに良く、外国人のなかにあって少しも見劣りしない。