──泉は、すっかり緑になった桜の樹を眺めてベリルを待っていた。
華やかなタイダルベイスンもいいけれど、葉桜は落ち着いた雰囲気をまとい、訪れる観光客に程よい陽射しを提供している。
遠くにベリルの姿を捉えて歩み寄り、互いに軽く手を上げて挨拶した。
相変わらずの上品な仕草に抱きしめたくなる心情をひと睨みで抑えられる。
泉は気を取り直し、本題を振った。
「振り出しに戻ったか」
「いいや、先に進んだ」
「あん?」
どういうことなのかとベリルを見下ろす。
「奴はこれで安心するだろう」
まだオープナーがいるとも知らずに──
「あんたも付けていたのか」
確かに、これまで何度となく逃してきたほど警戒心の強い相手と考えるなら、見つかることも見越していなければならなかった。
その穴を埋めてくれたのは有り難い。