「死んでいるからと何でも言っていいとは思うな」──低く発した息子の言葉に、母は恐怖で小さな叫びを上げる。

 なまじ成績が良かったせいか、母親は息子の将来像を勝手に作り上げていた。

 それが大きく崩れ落ちる音を耳元で聞いたことだろう。

 泣き崩れる母に若干、強く言い過ぎたかなと思いつつ、初めから生きている世界が違っていたのだと恭一郎はそこでもあっさり割り切った。

 さっさと親を捨て自由気ままに生活を始める。

 母親の干渉が面倒というだけでなく、こちらの世界に関わらない方がいいだろうと考えてのことだ。

 とはいえ、父親からは時折連絡があり、完全に縁を切ったという訳じゃない。

 他とは違った生き方を選んだ子供に不安があったのだろうと理解はしている。

 色々あって疎遠にはなっているが、毎月かかさず仕送りもしている──そうした、やりきれない感情をぶつける場所もなく今に至っている。