「ところで」

 ほぼゼロ距離にいる泉を無表情に見上げる。

「なんだ」

「会う必要はあったのか」

「当然だ」

 これだけなら通話で良かったのではと眉を寄せるベリルに、ややキレ気味に目を吊り上げる。

「なるほど」

 しれっと応えたその足元には、抱きつこうとした泉がしこたまスネを蹴られて声もなく悶絶していた。

「ま、まだ何もしてねえだろうが」

「されてからでは遅い」

 それもそうだと思いつつ、抱き心地の良さそうな腰を見やる。

 そんな思考が丸見えなのか、軽く睨まれて視線を外した。

「むやみな接触は避けたい」

 もちろん、件のことでの話だ。

 どちらも名のある傭兵なのだから、今まさに事件が起こっている場所で余計な接触をして相手に警戒されては内密に動いている意味がない。

 泉だってそんなことは充分に解ってはいる。しかし、この衝動を抑えるのはどうにも難しい。