【完】ある日、恋人を購入した。


「…尚叶くんが、安心…?」



そう言ってあたしがその言葉に首を傾げると、女将さんが言う。



「ええ。この旅館のご予約を頂いた際、おっしゃっていたんですよ。

一緒に連れてくる彼女を、楽しませたい。癒してあげたい、と。

良い記念日になるような旅行にしたい、ともおっしゃっておりました。

お客様が宿泊していた部屋は、この旅館の数ある部屋の中で一番良く安らげる部屋なんですよ」



「!」



女将さんはそこまで言うと…やがて他のお客さんに声をかけられて、「またのお越しをお待ちしております」と、その場を後にした。


…うそ。

尚叶くんが、そんなことを…?


あたしは全く知らなかったその事実に立ち尽くすと、ふと昨日のことを考える。


…確かに尚叶くん、あたしを楽しませたいって言ってた。

それに、お金を渡そうとしたら頑なに受け取らなくって…。

何か違っていた様子も、もしかしたら…。



「…っ、」



それなのに、あたしはまだ…


そんな尚叶くんに、お礼すら一言も言ってなかった。


逆に、傷つけるだけ傷つけて…、