【完】ある日、恋人を購入した。




温泉から上がると、あたしは用意してあった浴衣に着替えて、部屋に向かった。

…何だかこういう旅館の浴衣ってほとんど着たことないから…これで合ってるのかな。

部屋に戻るとそこに尚叶くんはいなくて、あたしは一人畳の上に寝転がる。


…きっと、尚叶くんも温泉に行ったんだろう。

尚叶くんのぶんの、浴衣がなくなってるし。


あたしはそう思うと、なんとなく、目を瞑った。


…けど、



「…!」



瞑った瞬間、ふいにあたしのスマホが激しく鳴りだした。

その音に急いで起き上がってスマホを手にとると、かけてきた相手は…神崎くんで。

あたしはその名前に一瞬出ることを戸惑うけれど、やがてその着信に出た。



「…はい?」



落ち着いた声で出ると、神崎くんの声が聞こえてきた。



「もしー、今なにしてんの?」

「…彼氏と旅行中。なに?」

「へー、旅行かぁ。どーせやっすいホテルなんだろ」



神崎くんは電話の向こうでそう言うと、嫌味たらしく鼻で笑う。


違うし。旅館だし、すんごい高そうだし。勝手に決めつけないでよね。

あたしは内心そう思うけど、敢えて言い返さずに黙って耐えた。


…あ、そう言えば宿泊費いくらなんだろ。

あとで尚叶くんに払わなきゃ。