映画を観に行ったのはついこの前なのに、何故か電話越しに聞く尚叶くんの声が少し懐かしく感じてしまう。
あたしがその声に「なに?」って聞こうとしたら、その前に尚叶くんが言った。
「…寝てた?」
「へ、」
尚叶くんはきっと、テンションが低いあたしの声に純粋にそう思ってしまったんだろう。
けど、そんなわけないし。
「寝てないよ」
「あ、そうなんだ」
「それより、なに?」
あたしはそう言うと、電話越しに尚叶くんの言葉を待つ。
…こんな時にでも、尚叶くんの「寝てた?」の天然な言葉を可愛く思えてしまうあたしは…病気かな。
一方、あたしに用件を聞かれた尚叶くんは、一瞬だけ言葉を詰まらせたあと、言った。
「えっ、と……この前のことなんだけど」
「…」